大田区の蒲田駅を訪れるたび、いつも気になっていたのが「バーボンロード」(正式名称:蒲田東急駅前通り会)。
ちらりと覗いてみると、長く愛され続けてきたのであろう昭和レトロな雰囲気が漂っていて、その不思議な魅力に思わず足を踏み入れそうにはなるのですが……なんというか、少しためらってしまいます!!
「お酒はたしなむ程度の私が、こんなディープな飲み屋街に行ってもいいの?」という不安が拭いきれず、いつもあと一歩のところで挑戦できずにいました。
ところが、噂によるとバーボンロードは「飲み」だけじゃないらしいんです! もちろん、名前の由来となったバーボンを片手に飲む常連さんたちも多いものの、美味しいものが食べられるグルメスポットとしても注目を集めているのだとか。
今回は、そんな噂を信じて、未踏のバーボンロードで食べ歩きをしてみることに。バーボンロードの新しい魅力が見えてくる、個性豊かな3店舗を巡ります!
バーボンロードは、JR京浜東北線、東急池上線・多摩川線が乗り入れる「蒲田」駅を出てすぐの場所に広がる飲み屋街です。通りに一歩踏み入れるだけで、細い路地に立ち並ぶ看板や提灯、そして漂う食欲をそそる香りに、一瞬にして独特の雰囲気に引き込まれます。
通りの名前の由来となったバーボンを片手に語り合う常連さんの姿は、バーボンロード名物。それに最近では、創意工夫を凝らした料理や、こだわりの食材を使ったメニューを提供する個性豊かな飲食店も増えています。
昼間から営業している店もありますが、やっぱり夕方以降になると活気が増してくるみたい。サラリーマンや地元の常連さんはもちろん、若い女性グループの姿も見かけるなど、意外にも幅広い層に人気のスポットなんです。
レトロな看板の並ぶ通りの中にあって、モダンな外観が目を引く、「ザ・トランジット トーキョー」。
こちらのお店が今回の食べ歩きのスタートです。イタリアの大衆酒場を思わせるベンチや樽のテーブルに、なんだかワクワクしてきました……!
店内に入ると、カウンター席からテーブル席まで、居心地の良い空間が広がっています。
出迎えてくれたのは、笑顔の素敵な店主さん。
「ザ・トランジット トーキョーは、ここバーボンロードで開業してもう6年になるのですが、今では常連さんが多いんですよ。みんなワイワイ楽しく飲んでくれるいい人ばっかりです」
そう言って、明るく話してくれました。なんでも相談したくなってしまうような、陽気で魅力的な雰囲気に、早くも心打たれてしまいます! う~ん、これは常連さんが増えるわけだ(笑)。
まずは、店の看板メニューである「トランジットの濃厚カルボナーラ」(1,380円)を注文。ほどよく茹でられたパスタに、クリーミーなソースがたっぷりと絡みます。一口頬張ると、濃厚なチーズの風味とベーコンの塩味が口いっぱいに広がる……!!
「実はこのカルボナーラ、昔働いていた下北沢の店で評判になって、テレビで紹介されたこともあるんですよ」と店主さん。有名シェフのお墨付きまでもらえたのだそう。
確かに、その評判は伊達ではありません。濃厚でありながら、しつこさを感じさせない絶妙な味わいに、思わず「おいしいぃぃ」と唸ってしまいました。
カルボナーラの濃厚な味わいに魅了された後は、爽やかな口直しが欲しくなるもの。そこで注文したのが、店主さんおすすめの、自家製リモンチェッロを使った「レモンサワー」(580円)です。
こちらは、すべて手作りで仕込まれているという、こだわりっぷり。スピリタスにレモンの皮を漬け込み、自家製シロップとレモン果汁を加えて作られたリモンチェッロ。それを炭酸で割れば、自家製レモンサワーの完成です。
宝石のように輝く金色のレモンサワーを口に含むと、レモンの爽やかな香りが広がります。アルコール度数は高めですが、すっきりとした味わいで、カルボナーラの余韻と絶妙にマッチ。ついつい杯が進んでしまいそうです。
「夜中まで営業していることもあって、うちは遅くに飲みに来る人も多いです。一人で切り盛りしてるから大変ですけど、素敵なお客さんが多いから、働いているのも楽しいんですよね」
そう語る店主さんの言葉に、バーボンロードに訪れる人々の魅力が垣間見えました。
所在地:東京都大田区西蒲田7-70-1
アクセス:JR京浜東北線、東急池上線・多摩川線「蒲田」駅から徒歩約3分
TEL:03-6424-7728
https://www.instagram.com/the_transit_tokyo/
次に訪れたのは、レトロな看板が目を引く「平壌冷麺 食道園(へいじょうれいめん しょくどうえん)」。店内に入ると、昭和の雰囲気漂う懐かしい空間に、幼いころの記憶が蘇るよう。
「東京で一番おいしい冷麺を食べさせてあげるから!」
そう言って出迎えてくれたのは、活気あふれるこのお店のご主人です。東日本大震災をきっかけに岩手から上京して蒲田でお店を始めたというご主人は、このお店でこだわりの冷麺を作り続けてきたのだそう。
さっそく看板メニュー「平壌冷麺」のビビンバセット(1,280円)を注文すると、ほどなくして料理が運ばれてきました。
透き通ったスープとコシのある麺、そしてゆで卵やキムチなど彩り豊かな具材が美しく盛り付けられて登場。ひと目見て、「これは……! 絶対に美味しいやつじゃん!!」と確信しました。
「うちの冷麺は注文を受けてから粉をこねて麺を作るんですよ。手間はかかりますけど、やっぱり生麺の味は格別ですからね」というご主人の言葉に期待が高まります!
一口すすると……今まで食べてきた冷麺と全然違う!! すこし太めの麺は弾力があって食べごたえたっぷり。まさに生麺ならではの食感です。
そして、麺に絡んだスープのあっさりとした中にも深みのある味わいがたまりません。スープは牛骨や牛肉を8時間も煮込んで作られているそう。
化学調味料に頼らず、素材の味を活かした丁寧な仕事ぶりが舌の上で感じられました。これこそ、「本物の冷麺」というのにふさわしい味わいかも……!!
セットのビビンバも優しい味で、冷麺にぴったり。冷たいスープで冷えた口の中が、温かいごはんで癒やされます。
「飛行機や新幹線を使って、はるばる遠方から食べに来てくれる人もいるんですよ」と、ご主人が誇らしげに語ってくれました。その言葉通り、ランチタイムには行列ができるほどの人気ぶりでした。
所在地:東京都大田区西蒲田7-64-8
アクセス:JR京浜東北線、東急池上線・多摩川線「蒲田」駅から徒歩約3分
TEL:03-3734-8951
https://www.instagram.com/heijoureimenshokudouen/
最後に訪れたのは、以前からSNSでチェックしていて気になっていた「小鳥と苺(ことりといちご)」。ミシュラン星付き店で腕を磨いたシェフがいるという噂に、期待が高まります!
昭和レトロな雰囲気の漂うバーボンロードを進んでいくと、なんだか可愛らしいお店が見えてきましたよ! 「小鳥と苺」と書かれたシンプルな看板と、苺色の外観が目を引きます。
店内に一歩足を踏み入れると、そこはまるで別世界……! カウンターのみの小さな空間ながら、その雰囲気は驚くほど洗練されています。
壁には店名の由来となったウィリアム・モリスの「いちご泥棒」柄の壁紙が貼られ、可愛らしさと高級感を同時に演出しています。天井から優雅に輝くシャンデリアが、さらに華やかさを添えていて、この空間にいるだけで特別な気分になれそう。
「どうしてこんなにかわいらしいお店を、バーボンロードで?」と尋ねてみると、シェフが微笑みながら素敵なエピソードを語ってくれました。
「フランスでの修行を終えて日本に帰国したとき、たまたま訪れた蒲田の雰囲気に魅了されたんです。多くの人が見過ごしてしまうかもしれない、この街の隠れた魅力を感じ取って。それ以来、ここバーボンロードで腕を振るっています」
そんなシェフのこだわりメニューのなかでも、今回いただいたのは、「ズワイガニとホタテのパイ包み焼き」(1,800円)と「うずらのファルシ」(6,000円)、そして「自家製お食事用スコーン~おいしいバター付き」(450円)。
つやつやと輝くお料理を見ていると、もう待ち切れない……! 冷める前に、いただきまーす!!
まずいただいたのは、「ズワイガニとホタテのパイ包み焼き」。オマール海老のアメリケーヌソースを添えた一品です。
口に入れた瞬間、「こんなに美味しいなんて……、なんだか贅沢過ぎない!?」と思ってしまうくらい、ズワイガニとホタテの旨味が溢れ出してきました。
サックサクのパイ生地に絡むアメリケーヌソースにはオマール海老の味がしっかりと溶け込んでいて、たまりません。
続いて、うずらのファルシ。ファルシとは「詰め物」という意味で、その名のとおり、鴨のひき肉、フォアグラ、ナッツ、ドライフルーツなどさまざまな具材が、うずらの中に詰められています。添えられているのは、贅沢な黒トリュフソース。
ナイフを入れるとぎゅっと詰められた食材が顔を出しました。その様子はまるで宝石箱みたい……。
弾力のあるうずらの肉は、噛めば噛むほど旨味が染み出してきて、中に詰められた甘酸っぱい具材の味と合わさって、複雑かつ上品な味わいです。あふれる美味しさを全部受け止めたくて、食べ切るまで無言で集中していました。
それぞれのお料理と一緒に、スコーンもいただきます。甘さ控えめでサクサクとした食感が特徴的で、意外にも食事に合わせるのにぴったり。
バターたっぷりの濃厚な味わいは、それだけでも十分美味しいのですが、ここでちょっとしたアイデアが浮かびました。
「ちょっとお行儀が悪いかも!」と思いつつ、他の料理のお皿に残ったソースをスコーンにつけて食べてみると……。
これが予想以上の美味しさ!
スコーンの甘さとソースの塩味、さまざまな味が混ざり、口の中が旨味で満たされます。もう幸せすぎる!!!
さまざまなこだわりの料理が楽しめるこちらのお店ですが、メニューは市場の食材によって、季節ごとに入れ替わっていくのだそう。
市場に新しい食材が出たら、すぐにメニューに取り入れ、お客様に季節の味を楽しんでもらいたいというシェフの想いが詰まっています。
あまりにも素敵なお店だから、誰かに自慢したいようで、誰にも教えたくないような穴場ビストロでした!
所在地:東京都大田区西蒲田7-64-6
アクセス:JR京浜東北線、東急池上線・多摩川線「蒲田」駅から徒歩約3分
TEL:03-6672-6103
https://www.instagram.com/cotori_to_ichigo/
最初は、ちょっとだけ不安な気持ちで始まったバーボンロードでの食べ歩き。そんな不安は杞憂に終わり、おいしいグルメを通じて、この街の新たな魅力を発見できました。
レトロな街の中にあったのは、創造性豊かな料理や丁寧な仕事ぶり、そして何より人々の温かさ。訪れたお店の方に「また絶対来ます!」と宣言してしまうほど、一度来ただけでホームのようになってしまう不思議な親しみやすさがありました。
単なる飲み屋街というイメージを覆す、多彩な魅力にあふれたバーボンロードは、本格的な料理を楽しめるレストランから、長年愛され続ける名店、そして新しい風を吹き込む話題のお店まで、さまざまな顔を持つ特別な場所です。
これまで「バーボンロードが気になっていたけど、入ったことはなかった!」という方も、ちょっと勇気を出して、足を踏み入れてみてください。
きっと、あなたのお気に入りの場所が見つかるはず! バーボンロードの奥深いグルメの世界へ、皆さんもぜひ探検に出かけてみてはいかがでしょうか。
例年8月には、先着2000杯の生ビールが無料で飲めるという変わったお祭り「生ビール祭り」がバーボンロードで開かれています。お酒好きな人なら、こういったイベントから入ってみるのもありですね。
本記事のライター:目次ほたる
プロフィール:
海外旅行も未経験な旅初心者。取材をきっかけに旅の魅力を知り、まずは国内旅行を楽しむために、身近な地域から行ったことのない都道府県まで、魅力的なスポットをリサーチ中。
着物や茶道をはじめとした日本文化が大好きで、歴史を感じる町並みを訪れるのが趣味。そのため、休日はカメラを持って古き良き街を散策したり、美術館や博物館を巡っている。
現在は、都内でフリーランスライターをやっており、取材記事やインタビュー記事を中心に執筆。大田区の好きな駅は、東急池上線の池上駅。
監修:松本里美/三好順