クリームソーダやカセットテープなど、Z世代に大人気の「昭和レトロ」。でも、身近なところからは昭和のにおいがどんどん消えていっていて、実際に昭和の暮らしがどんな風だったのかを知る機会は少ないもの……。
そんな中、大田区の久が原(くがはら)に、昭和26年に建てられた住宅を丸ごと保存した「昭和のくらし博物館」があることを発見! 当時の家具や生活道具もそのまま残されているそうで、映画のセットの中にいるような体験ができるとか。
博物館の近くには、昭和の面影が残る商店街も。ここ久が原なら、リアルで懐かしい「昭和レトロ」が堪能できそうです♪ さあ、昭和の世界へ行ってみよー!
東急池上線「久が原」駅から徒歩8分。住宅街を進むと右手に看板が! 一般住宅の間にふっと現れるので見落とさないように注意ですね。そこから住宅地の隙間の小路を進むと、趣のある木造家屋が現れました。
昭和26年に建てられた住宅がそのまま保存されているという、「昭和のくらし博物館」。戦後の庶民の暮らしを丸ごと展示しているというから、なんとも大胆です。主屋部分が国の登録有形文化財となっている建物は、館長の小泉和子(こいずみ かずこ)さんが両親と、妹3人の6人家族で住んでいた生家なのだそう。
「取り壊しも考えたそうですが、1軒分の家財がそっくり残っていること、この時期に建てられた住宅が現在はほとんど残っていないことから、戦後の庶民の暮らしの資料として残すことにして、平成11年に博物館を開館しました」と、館内を案内してくれた学芸員の小林こずえさんが教えてくれました。
写真は、事務局長で学芸員の小林こずえさん(左)と着物姿が素敵な受付スタッフの望月理奈(もちづき りな)さん(右)。時間が合えば一般のお客さんでも、案内してもらいながら見学させてくれるとか。博物館や美術館って、説明付きで巡ると作品や展示の解像度がぐっと上がるんですよね〜。
縁側のある和室には、雰囲気満点のコタツが(冬限定)。入ったら出てこられなさそう……。
作り付けの下駄箱には草履や下駄が。昭和初期はまだ着物と洋服が混在していたそうです。
玄関脇には小さな書斎。和室が中心の建物内に1室だけ洋間を設けたモダンなスタイルで、家具類もこの家を設計した父親の小泉孝(こいずみたかし)氏が設計したものだそう。昭和らしいこの和洋折衷感がたまりません!
小泉さん一家の写真も飾られています。みんな笑顔で幸せそう! 住人の顔を知ることで、ここでの一家の暮らしをよりリアルにイメージすることができました。
黒電話に真空管ラジオ、昔懐かしい柱時計のボーンボーンという音。下駄箱には草履や下駄、ちゃぶ台には当時のごはんが並べられていました。リアルな小物のおかげで、昭和の暮らしがより鮮明にイメージされ、映画や朝ドラの世界にトリップした気分です!
ちなみに、茶色いお布団のようなものに包まれているのは“おひつ”で、「炊いたご飯はこんな風に保温していたんですよ」と小林さんに教えてもらいました。
「戦後はまだ電気がなかったので、必要なものはその都度買い物に行き、冷暗な床下に漬物や味噌、炭のストックをしまったり、湿気がこないように乾物などは上に吊るしたり。収納場所にも工夫をこらしていました。茶の間は、昼間は食事やだんらんをする場所で、夜は布団を敷いて寝室にしていました。わずか18坪の狭い住宅ながら空間を上手に使って暮らしていたんですね」と小林さんが床下収納を見せながら説明してくれました。
小学生の見学も多く、昭和を知らない子供たちは、そんな暮らしの知恵に興味津々に目を輝かせるそうです。確かに、理にかなっていてうまいことできていますよね。物がない時代の暮らしの工夫は、サステナビリティが求められる現代にこそ必要な暮らしの知恵なのかもしれないと改めて考えさせられました。
縁側に、昔懐かしの足踏みミシン。その昔、うちの母も使っていたなぁ。私たちにワンピースや手提げ袋を縫ってくれたもんです。昔は作れるものは手作りが基本でしたね。
2階から見下ろすと、お庭には柿の木や、ミカンや梅の木。そういえば、昭和の頃は庭に果樹の木がある家が多かった気が。我が家でも、庭で取れた梅で梅干しや梅酒を作ったものでした。懐かしい。
「昭和のくらし博物館」は、昭和の記憶がある方々は思い出に浸ることができ、昭和を知らない世代には新鮮に感じる「昭和の生活」を体感することができる、そんな温故知新な場所でした。
映画などをきっかけにリアルな日本の生活文化、昭和レトロに興味を持ち、こちらを訪れる海外からの旅行者も多いというのも納得です。もし自分が海外旅行をするなら、その国の文化や暮らしをリアルに感じられる場所に行きたくなるだろうなぁ。「暮らし」って、価値観とか歴史とか、色んなものが詰まっていて面白いですよね!
大人10名以上であれば、金土日以外でも開館してくださるそうです。ご興味のある方はぜひご予約を!
所在地:大田区南久が原2-26-19
アクセス:東急池上線「久が原」駅より徒歩約8分。または東急多摩川線「下丸子」駅より徒歩約8分。
TEL:03-3750-1808
https://www.showanokurashi.com/
駅から東側に伸びる「ライラック通り」は、昭和8年生まれの商店街。街路樹にライラックが植えられた、静かで落ち着いた雰囲気の商店街です。個人商店が多く大型チェーン店がないからなのか、喧騒とは無縁の、いい意味で商売っ気のないのんびりとした空気にほっとさせられます。
商店街では、年に2回ほど夏祭りやライラックまつりなどのイベントも開催していて、多くの人で賑わうそうです。今回は、そんなライラック通りにしかない、個性が光る2店舗を訪れてみました!
美しい曲線で彩られた切子ガラスが店頭に並ぶ「手仕事ショップ・フォレスト」。こちらの工房で生まれたオリジナルの切子は「蒲田切子(かまたきりこ)」と呼ばれるそうです。伝統的な江戸切子ではありますが、なんともデザインが斬新でいいですね!
色付きのものだけでなく透明な切子グラス、東京ウォーターグラスもあり、こちらは「大田のお土産100選」優秀賞も受賞しています。普段使いにも良さそうなモダンなデザイン。色付きの飲み物が入ったときに模様がぐっと映えそう!自分へのご褒美に買っちゃおうかな〜。
「もともと、社長である夫の父が切子職人で。そこの工房が得意とした円のカットを活かした、ここにしかないデザインを、ということで誕生したブランドが蒲田切子です。伝統的な江戸切子は線を組み合わせた鋭角的な図柄が多いのですが、丸く彫ることによる自由な図柄が蒲田切子の特徴です」と店長の鍋谷香(なべたに かおり)さんに説明していただきました。私の知っている江戸切子とちょっと違うなと思っていましたが、そういうことなんですね!
<写真左から、風波(かぜなみ)、渦紋(かもん)、水鏡(すいきょう)>
江戸切子自体は、江戸時代後期に生まれて大正時代から昭和初期にかけて急速に発展、昭和60年に東京都の伝統工芸品産業に指定されたという歴史を持っています。
水滴がつながっていくようなデザインの代表作「水鏡」、打ち寄せる波をイメージした「風波」、底から覗くと渦のような「渦紋」など。モダンで、日々の生活にもスッとなじみそうな蒲田切子のグラスは、ものづくりのまち・大田区を代表する、海外からも高い評価を受けている逸品です。
蒲田切子だけでなく、催事に出店した際に知り合った職人さん、作家さんなど、地域の手しごと作品、アイテムを多く取り揃えているという「手仕事ショップ・フォレスト」。ここにしかない素敵なお土産が見つかりそうです!
所在地:大田区久が原3-34-13
アクセス:東急池上線「久が原」駅から徒歩約3分
TEL:03-5748-7321
https://www.glassforest.co.jp/
昭和36年創業の「ベンデル洋菓子店」は、ライラック通りにある小さな洋菓子店。昨今は“映える”が売りのケーキが目立つ中、職人が作るクラシックな「洋菓子」のフォルムが、逆に心に響いてきます。
「この店は親父が開いた店で、私は2代目。2代目といっても、55歳で親父が倒れて、急遽跡を引き継いだからレシピも残ってなくて。最初は苦労しました。修行先で習った今風のケーキを出したら、常連さんたちから『これじゃない』と言われて。2年ぐらいかけてベンデルの味を復刻させました」と店主の山岸浩之(やまぎし ひろゆき)さん。
「復刻と言っても、元通りの味じゃお客さんは認めてくれないから。材料のランクを上げて、前よりもちょっと上ぐらいで、はじめて“ベンデルの味”なんだよね」。
なるほど! 常連さんも交えたこんなドラマチックな経緯があって、今の「ベンデル洋菓子店」があるんですね。
山岸さんがお一人で作っているため、店頭に並ぶケーキは常時8種類ほど。「今日は取材だから、頑張ってちょっと多めに並べてるかな(笑)」。定番のモンブラン、ショートケーキ、プリンは、昔懐かしいレトロでかわいいルックスです。山岸さんのこだわりで、季節商品として和の素材を使ったケーキを必ず1、2種類出しているそう。取材時は、さくらのショートケーキときなこと小豆のショートケーキがありました。
せっかくなので、お土産に買って食べてみることに。さくらのショートケーキは、桜味の生クリームとイチゴの代わりに塩漬けの桜がトッピングされた、鼻腔に広がる桜の香りがたまらない! 桜のケーキを食べながら春を待つのもいいですよね〜♪ きなこと小豆のショートケーキも、和菓子のようないい塩梅の甘じょっぱさで、和菓子党の方にも喜んでもらえそう。季節ごとにどんな和のケーキが出ているのか、気になって通ってしまいそうだな〜。
ケーキはどれも小ぶりなサイズですが、バターやミルクの味わいがしっかりと感じられる味わいでした。素材の良さが感じられ、食べ応えはしっかりあるのに2つぐらいぺろりと食べられてしまう、あと引く美味しさがあります。夏に登場するというサバランも絶対に美味しいはず! 今からすでに楽しみです♪
久が原の名物として手土産に良さそうなのが、先代が考案し、50年以上愛される「ファミリーボンボン」。ふわふわのココア生地でさっぱりとしたチョコクリームをサンドしてチョコレートでコーティングした、どら焼き型のお菓子です。パッケージもかわいい!
それから、「おおたの逸品」にも選ばれた生チョコ「ライラック通りの石畳」。この2つは昔からの根強いファンが多いとか。(※近日リニューアル予定)
そしてこれは、ハリネズミ推しの山岸さん考案の、「はりねずみのモンブランプリン」です。か、かわいい!! モンブランでハリネズミというアイデアが最高じゃないですか!? このかわいさ、お土産や差し入れに絶対喜ばれそうですよね!
お店のガラス扉にクレヨンで描かれたキュートな絵柄は、近所の作家さんによるもの。取材時にばったり作家さんが「銀行に行くところなの〜」と通りかかって挨拶されていて、本当に地元の方に愛されているお店なんだな〜とほっこりしました。なんて久が原らしいやり取りなんだ! 季節ごとに入れ替わるこちらの絵を楽しみに通われるお客さまも少なくないそうです。
所在地:大田区久が原3-36-3
アクセス:東急池上線「久が原」駅から徒歩約1分
TEL:03-3752-1641
http://www.benderu.jp/
今回、はじめて久が原を訪れましたが、まち全体が昭和の空気感を残した「リアルな昭和レトロ」に浸れるまちでした。
駅前の商店街には、懐かしいたたずまいの喫茶店やお寿司屋さん、精肉店などが並び、チェーンの飲食店がひとつもありません。駅舎の木のベンチや踏切の音、庭に果樹が植えられた家々。久が原に漂うレトロな雰囲気は、最近人気の「昭和レトロ」とは一線を画す、昭和の暮らしの息づかい、のんびりとした空気感によるものでした。まるで小津安二郎の映画のような、あたたかくてエモい世界観に浸れて、心が解きほぐされた感じ。
はじめてなのに懐かしいレトロな久が原は、のんびり過ごしたい休日の散策にぴったりのまちでした♪
本記事のライター:宮原香菜子
日本大学芸術学部写真学科卒。情報誌や旅行ガイドブックの編集プロダクションを経て、フリーランスのライター・編集・ときどきカメラマンに。街歩きやグルメ取材、旅先のリアルなレポート記事を得意としています。趣味と実益を兼ね、おてんば盛りの小学生の娘が思いっきり遊べて、大人も楽しめるスポットを日々発掘しています。ママライターとして子育てに役立つ情報をWebや雑誌で発信中です。
監修:松本里美/三好順