日暮れが早くなる秋。日の長かった夏が惜しまれるところですが、秋の夜長をたっぷり楽しめそうなイベントがありました。池上本門寺で行われた「お会式(おえしき)」です。
お会式は、毎年10月11日〜13日に池上本門寺で行われている行事で、例年30万人もの参拝者があるそうです。たくさんの屋台が立ち並び、境内だけでなく池上地域全体がお祭りムードに包まれる盛大なもの。特に10月12日に行われる「万灯練行列(まんどうねりぎょうれつ)」は深夜まで盛り上がるのだとか。万灯練行列とは一体どんなものなのでしょう? ワクワクしながら行ってきました!
実はお会式といっても何を指すのかよくわからず。これではいかんと、お会式とは何なのか事前に予習してみました。
「お会式(おえしき)」とは、鎌倉時代に仏教の一派である日蓮宗を開いた創始者、日蓮聖人の命日に行われる法要のことをいうそうです。もとは各派宗祖の命日に行われる法要行事全般を指す言葉だったのが、池上本門寺のお会式が江戸時代からあまりに盛大だったため、お会式といえば日蓮聖人の命日=10月13日を指す言葉として広まったのだとか。池上本門寺のお会式は歌川広重の浮世絵にも描かれており、「お会式」という言葉は俳句の秋の季語にもなっています。
ちなみに、お会式の開催日は土日祝に関わらず10月11日から13日と決まっており、今年は平日でしたが、コロナ禍を経て4年ぶりの通常開催! これは盛り上がりそうですね。
池上本門寺の最寄り駅は、東急池上線の池上駅。
お会式当日、東急池上線の蒲田駅で乗り換えたのですが、ホームには「献燈 東急 蒲田駅」と書かれた花飾りのついた万灯が飾られていました。電車も臨時ダイヤが運行され、14時から23時台まで、上下線各28本増発されています。
10月12日の16時半ごろ池上駅に降りると、通常の改札口のほか、臨時出口も設置されていました。駅前のバスターミナルも、大勢の警察官によって交通規制が敷かれています。お会式は11日から始まりますが、12日は万灯練行列が行われるため、バスや車の車両通行止めの範囲が広がり、車が通らなくなった道路には屋台がずらりと並ぶそうです。
池上駅から池上本門寺に続く旧参道「本門寺通り」に向かうと、チョコバナナ、たこ焼き、ベビーカステラなどなど、たくさんの屋台が並んでいました。
道の先まで左右にびっしりと屋台が並ぶ様は圧巻です。歩いているだけでお祭り気分は急上昇! 大人の私もついワクワクして「何か買いたい!」と思うものの、食べたいもの、気になるものが多すぎて、なかなか決められず……悩ましかったです。我が娘を連れてきてあげたかったなと思いました。きっと目をキラキラさせて大興奮したことでしょう。来年は娘と、屋台で夕飯を食べるつもりで来ようと思います!
ご家族連れ、仕事帰りのサラリーマン、学校帰りの高校生、地元の子供たちに混じって、浴衣姿で楽しむ方々も発見しました。風情があっていいですよね。海外からの観光客も多く、屋台フードを楽しまれていました。
屋台のバリエーションも実に豊富で、チャプチェやケバブなど各国料理の屋台があったり、LEDライトアップされた金魚すくいがあったり。今の屋台のトレンドをぎゅっと集めた、さながら屋台のエキスポのようでした。
お祭りの定番、りんご飴やあんず飴も、フルーツ飴と冠してキウイやイチゴ、みかんなどが並ぶ屋台もありました。初めて見たので、どれどれひとつ……と食べてみると、飴でコーティングされたカリッとした表面と溢れ出るジューシーさに驚き! 飴をまとわせる際に加熱されるからなのでしょうか、フルーツの甘味が増強されていて、とっても美味しかったです。
食べ物系だけでなく、射的や輪投げ、スーパーボールすくいなどのゲーム系の屋台も多く、大人も子どもも楽しそうに興じていました。また、露天商の本格的な屋台だけでなく、地元のお店が出しているブースもあり、アットホームな雰囲気でした。
境内にも屋台がたくさん並んでいます。仁王門から大堂にかけての広場にはぐるりと屋台が立ち並び、五重塔のほうに続く小道には両側に屋台が並んでいて、満員具合がすごかったです。20時以降、クライマックスに向けて人が多くなるので、もし小さなお子さま連れで行かれる場合には、早めの時間がおすすめですね。
少し薄暗くなってきた18時ごろ、総門の前に到着すると、太鼓や笛が奏でるお囃子に合わせて纏(まとい)を振る先導、それに続いて万灯が続々と境内に向かって入っていくのが見えました。
お囃子を聴くとワクワクと高揚してくるのは日本人の性でしょうか。薄闇に万灯の灯りが映えて、とってもきれいでした。
ちなみに、万灯とは花飾りのついた提灯のようなもので、五重塔と桜を表現しています。日蓮聖人の入滅の際、10月だというのに桜の花が咲いたという言い伝えから飾られるようになったそうです。
万灯練行列は、総門をくぐり、日蓮宗の熱心な信者だった加藤清正が寄進したと伝わる、此経難持坂(しきょうなんじざか)の96段の石段を登っていきます。この石段の段数は「法華経」宝塔品(ほうとうほん)の経文96文字にちなんでおり、経文の頭4文字「此経難持」をとって名付けられたそうです。ビルの5階に相当する高さがあり、かなり急な石段のため、左側一方通行となっています。右側を万灯練行列が登っていきます。坂の途中で立ち止まることや、振り返っての写真撮影は禁止されていました。
境内には規制線が張られ、大堂の前は万灯練行列を迎える準備が整えられています。万灯練行列は、大堂の前で纏振りなどを披露した後、奥へ進み、本殿の前の休憩所で休まれるそうです。
万灯の大きさや形は講中(こうじゅう。信徒の集まりのこと)によって異なるようで、五重塔を模したもの、行灯型のもの、複数の提灯をつけた巨大なものなどさまざまです。夜も深い時間になるほど、講中の人数も増え、万灯の大きさも巨大化していっていました。池上本門寺の仁王門の梁は、万灯練行列が支障なくくぐれるよう、通常より下層の桁と梁の高さが高くなっているそうなのですが、その梁をギリギリくぐって入ってくるような巨大な万灯もありました!
纏の振り方も、夜も深くなるにつれ激しさを増します。クライマックスは20時〜21時ごろでしょうか。ダイナミックな纏振りは外国人観光客にも大人気で、歓声に包まれていました。大堂の前では、大勢の観客がカメラを構えています。この迫力、この熱気がたまりません。
ちなみに、万灯練行列で纏が振られるようになったのは、町火消したちが参詣に訪れたことによるとか。祭り好きの江戸っ子たちがはりきって纏を振る様が想像され、花のお江戸の万灯練行列らしく風情が感じられました。
大堂から奥へ進むと、本殿からはお題目が聞こえてきました。その本殿の横を通り、「日蓮聖人御廟所」へと進みます。こちらは、正月とお会式の期間のみご開帳となるそうで、普段は見ることができない中を拝見することができました。お坊さんたちは、交代で一晩中お題目を唱えられるそうです。大堂前の喧騒とはうってかわり厳かな雰囲気に包まれた空間で、お会式が法要行事であることを思い出させてくれます。
本殿の横から続く、提灯がきれいに灯る大坊坂(だいぼうざか)を下ると、途中の右手にライトアップされた多宝塔(たほうとう)が見えてきます。
池上本門寺の多宝塔は国指定重要文化財です。ご開帳されるのは1年のうち、10月12日いっぱいと13日の午前中のみだそうで、とても貴重なものを見ることができました。夜空に浮き立つ朱塗りの外観と、ご開帳されて中が黄金に輝く多宝塔は、とても幻想的。夜のほうが、神々しさが際立っておすすめです。
多宝塔から大坊坂に戻り、さらに下ると日蓮聖人がお亡くなりになったお寺「大坊本行寺」があります。「ご臨終の間」ではお経が唱えられ、その近くには「お会式桜(おえしきざくら)」がありました。
日蓮聖人が亡くなった時に一斉に花を咲かせたと伝えられる桜の木が現存していること、そしてこの時期に桜の花が咲いていたことに驚きました! 感動と興奮で桜を激写してみたのですが、写真でおわかりになるでしょうか?
参拝した証として授与していただける御朱印も、お会式の期間は普段とは異なる特別バージョンです!お会式桜と纏があしらわれていて、とても素敵なデザインです。念のため、と御朱印帳を持っていって良かったです。限定バージョンの特別感にありがたさも倍増です。
御朱印は、大堂の右手にある、お守りなどがある総合案内所にていただくことができます。窓口で御朱印帳をお渡しすると「40分ほどかかりますので、後ほど取りにいらしてください」と引き換えの番号札を渡してくださいました。その間に万灯練行列を見物したり、境内の屋台をひと回りしたりできたので、待ち時間は実質ゼロでした!
730年を超える歴史を誇る、由緒ある池上本門寺ですから、歴史的建造物も見ごたえがあります。写真は美しくライトアップされている「五重塔」。
池上本門寺の五重塔は、慶長12(1607)年に建立。関東に4基現存する幕末以前建立の五重塔のうち最も古く、二代将軍・徳川秀忠公の武運長久・病気平癒を当山に祈願した秀忠公の乳母岡部局(大姥局、法号は正心院日幸)が願主となり、秀忠公が建立・寄進しました。そのたもとで老若男女が屋台フードを楽しむ様には、人々の日常に寄り添いながら脈々と続いてきた信仰の強さ、生命力のようなものを感じ、素敵だなと思いました。
30万人が訪れるという池上本門寺のお会式。行ってみたら、予想以上の感動がありました。たくさんの屋台が出ているお祭りとしての祝祭感と、仏教行事としての神聖さが絶妙に混ざり合った、とても素敵な催しでした。お会式が、いかに人々に愛されているのかということを実感します。
21時ごろ、徐々に遠ざかるお題目と団扇太鼓の音を聞きながら駅に向かっていると、沿道の屋台や周辺のお店はお会式帰りの人々でまだまだ賑わっていました。祭りの夜は、長く終わらないようです。
日蓮宗の仏教行事と思っていましたが、初心者でも存分に楽しめました。気になる屋台フードもたくさんあったので、来年は娘を連れて、もっとお腹を空かせて挑みたいと思います。毎年の楽しみが増えました! まだお会式に行ったことがないという方は、ぜひ訪れてみてくださいね。
なお、東京都大田区中央部にある馬込・池上・洗足池は、総称して「馬池洗(まいせん)」とも呼ばれています。花や緑、数々の史跡に恵まれ、自然や文化、歴史に触れられる地域ですので、池上本門寺のある池上エリアの近く、馬込や洗足池にもぜひ足を運んでみてください。
本記事のライター:宮原香菜子
日本大学芸術学部写真学科卒。情報誌や旅行ガイドブックの編集プロダクションを経て、フリーランスのライター・編集・ときどきカメラマンに。街歩きやグルメ取材、旅先のリアルなレポート記事を得意としています。趣味と実益を兼ね、おてんば盛りの小学生の娘が思いっきり遊べて、大人も楽しめるスポットを日々発掘しています。ママライターとして子育てに役立つ情報をWebや雑誌で発信中です。
監修:松本里美/三好順