「10歩先は海苔屋」
大森にある私の家の話です。
内見をしたときは、「海苔屋なんて珍しいなあ」と感じたのですが、実際に住んでみて、100歩先には別の海苔屋が、150歩先にはまた別の海苔屋があることを知りました。自分で書いていてウソみたいな話ですが、ホントなんです。まったく珍しくなかった……。
実は、大田区の大森は海苔と非常に縁の深い街です。昭和38年までは海苔の養殖がおこなわれ、日本でも有数の名産地だったそう。養殖をしなくなったあとも、海苔加工の技術や文化は継承され、今でもたくさんの問屋や専門店を街中で見かけることができます。
大森には海苔の養殖の歴史や文化が学べる「大森 海苔のふるさと館」もあります!
こんなにも「海苔」が有名な街なのに、実際に住んでみるまでまったく知りませんでした。私だけでなく、知らない人は結構いるのかも……。今日はそんな知られざる「海苔タウン」大森で、海苔グルメを食べまくります!
「海苔の松尾」の創業は、なんと1669年。350年以上の歴史をもつこのお店は、大森で初めてできた海苔問屋なんだそうです。そんな「はじまりのお店」は、海苔づくしの1日の開幕にふさわしいはず! まずはここから立ち寄ってみましょう。
今日は特売日でお店は大盛況! 朝からひっきりなしにお客さんが訪れてきます。お店に入ると、すでにレジに並ぶお客さんがずらり! この日を楽しみにしていた近隣住民の方々がたくさんいるんだろうなぁ。
店内には海苔はもちろん、お茶や食器など、贈答品にぴったりな商品が並んでいました。
「僕が子どものころは、すぐそこの歩道橋くらいまで海が迫っていてね……」
そう話すのは、代表の松尾 順一さん。特売日で忙しい日にもかかわらず、親切に取材にご協力いただきました。
いまは主に有明産の海苔を直接仕入れて、直売店の上のフロアで加工を行っているそうです。何千種もある海苔の分類や等級から、目的に合ったものを仕入れるのは至難の業! プロの目利きが光るこだわりのポイントです。
そんな松尾さんご自身が好きな海苔の食べ方は、オーソドックスな「焼き海苔」。「いい海苔は味付けしなくてもうまい」という言葉は本当にごもっともだと感じました……!
「松尾」の海苔は、平和島にある直営店のみならず、スーパーなどへ卸して販売する機会も増えてきているそう。ぜひ皆様の近くのスーパーでも、海苔コーナーで探してみてください!
さて、今日はせっかくの特売日です。お土産を買って帰りましょう。ここからは、店内を覗いて私が一目惚れしてしまった2つの商品を紹介します。
まずは「バター風味のり」(700円)。バター×海苔のなんとも背徳的なマリアージュに期待して、ついつい手が伸びてしまいました……!
チャックを開けるとふわーっと香る、甘美なバターと海苔の香り! これは期待通りになりそうだ。
ご飯にオンして、いざ実食!
まず鼻に抜けるのがバターの香り。続いて広がる海苔の旨み。最後に口の中に残るバターの風味……。何枚か食べ進めると、バター、海苔、バター、海苔……と次々と口の中に広がる香りに、休む暇がありません! 永遠に手が伸びてしまいそうです。
それでもたっぷり80枚入りなので、なかなか無くならないのが嬉しいところ。ご飯にも、おやつ・おつまみにも、気付けば毎日食べてしまう、離れがたくなるグルメです。
もう一品、佃煮(464円)も買ってみました。
瓶を開け、まずは深呼吸。
すーーーっ!
一気に鼻に広がる鮮烈な海苔と醤油の香り……。開けたての瓶詰めって、思わず深呼吸したくなってしまうんですよね。
こちらもご飯に載せていただきます!
これは!? 食べたことのない佃煮!
海苔の佃煮ってもっとのっぺりとした、粘度の高いペーストのイメージでした。
「松尾」の佃煮は違います。海苔の繊維がしっかり残っていて、「海苔を食べている感」がある。もはやシャキシャキ感さえ感じます。これが、海苔屋さんの本気の佃煮か……! 新しい佃煮の概念に出会えました。買ってみてよかったなぁ〜。
しばらくうちの食卓が豊かになりそうです。
所在地:東京都大田区大森東1-6-3
アクセス:京急本線「平和島」駅から徒歩4分
TEL:03-3762-0656
https://nori-matsuo.com/
朗らかな笑顔の似合うご夫婦が切り盛りするのは、京急本線「大森町」駅の目の前にある無添加カレー店、「昼飯屋(ひるめしや)」。メディアでもよく取り上げられる人気店なので、聞いたことがあるという人もいるかもしれません。
実はここ、私が普段からプライベートで通っているお店なんです! 素材にこだわった無添加カレーはどれを食べてもおいしくて、プライベートでは全種類食べつくしています。
そんな「昼飯屋」で今日いただくのは……
もちろん「海苔カレー」(1,200円)です!
うん。やっぱり今日もうまい。海苔でとろっと感の増したカレールー、パリっと香ばしいチキン、副菜のシャキシャキしたコールスロー……ひと皿にたくさんの味や食感が詰まっています。
「海苔カレー」は、定番メニューの「和だしチキンカレー」に海苔の佃煮を加え、まろやかに仕上げた一品。私はもちろん、「和だしチキンカレー」も食べたことがあるのですが、それがベースになっていたなんて知りませんでした……! そのくらい海苔によって味・食感・香りなどすべての印象がガラリと変わるんです。海苔という素材の主役オーラ、すごすぎ!
「最初はカレーと海苔が合うのか不安がるお客さんもいます。でも、そういう方こそ実際に食べると想像以上のおいしさに驚き、リピーターになってくれるのが海苔カレーですね」
と、店長の高瀬 晋一さんは教えてくれました。ご当地感や物珍しさだけではなく、本当にうまさの実力があるからこそ、リピーター人気の高いメニューとして愛されていることがうかがえます。
トッピングの焼き海苔でルーとライスを巻いて食べたり、自家製のスパイスビネガーをちょい足ししたりと、いろんな食べ方を楽しめるので、何度も通って食べてみるのがおすすめです。
レトルトやテイクアウトも販売中! 取材中にも、テイクアウトしていく常連のお客さんと、朗らかに会話する店長の姿が印象的でした。
所在地:東京都大田区大森西5-10-10
アクセス:京急本線「大森町」駅から徒歩10秒
TEL:070-3270-2024
https://hirumeshiya1.com/
みなさんは「ラーメンに乗っている海苔」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか? ペラっと一枚添えてある板海苔でしょうか。京急本線「梅屋敷」駅前にあるラーメン店「ONORI(オオノリ)」では、一味違います。
さっそく、看板メニューである「ŌNORI特製(ラーメン)」(1,200円)と「ŌNORI特製まぜそば」(1,200円)を注文してみました。
海苔がドーン!(特製ラーメン)
ドドン!!(特製まぜそば)
すごい……! こんなラーメンやまぜそば、見たことがありません。どちらも海苔が丼を覆いつくす勢いで、完全に主役です。
ラーメンもまぜそばも、使われているのは同じ中太のちぢれ麺。食べはじめのまだパリパリ、サクサクしている海苔に麺がよく絡み、食感が楽しいです。
だんだんと海苔がなじんでくると、ラーメンの海苔はスープをコク深くまろやかに、まぜそばの海苔は全体をパンチ強く鮮やかな味にしていると感じました。調理によっていろんな表情を見せる海苔の万能さを思い知らされます。
「ŌNORI」は味変できる調味料も多彩。「まぜそばにかけるのかな?」と思い店長の町田 勇司さんに聞くと、「どちらにかけてもOK」とのこと。
トッピングも豊富にあるので、自分好みの味を探しに何度も通ってみたくなります。
そんな店長のおすすめは、まぜそばに納豆トッピング。和風の味が海苔とベストマッチするんだそうです。どんな味わいなんだろう……!
そういえば「ŌNORI」という店名って、やっぱり大森に掛かっているのでしょうか? 気になって店長に聞いてみました。
「はい、『海苔』と『大森』を掛けています。昔から大森に住んでいる人は、大森や大田区が海苔ゆかりの地だということを知っているのですが、20〜30代の若い人は知らないことが多くて。地域のルーツを知ってほしいという想いから、この店名にしました」
「ŌNORI」は2023年3月のオープン。一年足らずで老若男女問わず、ラーメン・まぜそばともに愛されるお店となっています。オープン前には都内60店舗以上のラーメンを食べ、味を研究・開発したという店長は、「ゆくゆくはフランチャイズ展開もして、2号店、3号店と拡大していきたいです」と展望を語ってくれました。大森の海苔グルメがもっと広まっていくのが楽しみです!
所在地:東京都大田区大森西6-15-17
アクセス:京急本線「梅屋敷」駅から徒歩1分
TEL:03-5763-5157
https://tabelog.com/tokyo/A1315/A131503/13283182/
以上、今回は3つの海苔グルメスポットを紹介しました。人生で一番海苔を食べた日になったかもしれない……!
驚いたのは、「海苔はどんな食べ方や調理方法でも映える食材である」ということ。そのまま食べてもパリパリでおいしいのはもちろん、まろやかなうまみの土台になったり、とろみをつけて食感を変えたり、味のインパクトを強めたり……。たった1日でいろんな海苔のかたちに出会えた気がします。
大森に来たなら、海苔を主役にした海苔グルメをぜひ堪能してみてください。もう、食卓の脇役だなんて言わせませんよ!
本記事のライター:安光 あずみ
プロフィール:
大田区在住のフリーライター。広告代理店で営業やディレクターを経験したのち、ライターとして独立。「ぼっちのazumiさん」名義でnoteも更新中。ひとり旅や街道歩き、神社巡りが好き。大田区のお気に入りスポットは「大森ふるさとの浜辺公園」。大田区に引っ越してから幾度となく通い続けている。
監修:松本里美/三好順