チーム仲間まわし「アンプProject」
町工場同士で連携し、技術をまわしてプロダクトを作る。完成に向けて奮闘する若き職人たちに迫ります!
―プロジェクト紹介動画―
ーーーチーム仲間まわし
おおたオープンファクトリー(以下、OOF)をきっかけに結成された「チーム仲間まわし」
若くして町工場で働く人や職人、それらを見守る経営者や地域で活動する方がチームに参加し、
微力ながら大田区を中心とした町工場を盛り上げてきた。
※仲間まわし:尖った技術を持つ工場がそれぞれ協力してひとつの製品を作り上げる、町工場ネットワークの呼称。
ーーー定例会、そして始動
月に一度の定例会では、実際に集まって加工技術の知識を共有し、時には雑談をする。
互いの技術を知ることでそれぞれの事業に生かすことができ、また雑談から生まれた新たなアイデアはものづくりへのモチベーションに繋がっていた。
昨今の情勢により直接集まることが難しく、現在はオンラインによるコミュニケーションが主体となった。
昨年のイベントでは一般の方から寄せられた手書きのスケッチを元に、製作の可否を各技術目線で検討するオンライン打ち合わせを動画にて配信。ものづくりの企業で働く我々にとって、実物を作れないことはとても歯痒いものであったが「職人同士が話し合う姿が面白い」という声が寄せられた。
そうした中で昨年のOOFが終わり、我々は翌年に向けてオンライン定例会を行うのであった。
2021年はどんなことができるだろうか。期待を不安を胸に、全く違う町工場で働いているはずのメンバーがまるで一企業の同僚かのように会話を弾ませていた。
ーーー新たな仲間
不安定な情勢の中、チームに新たなメンバーが加わった。兼ねてより交流のあるデザインユニットのYOCHIYAと、IoTシステムを開発するデザイン&テクノロジーだ。
彼らの多様な活動はチーム内でも既に話がされており、協力者として頼もしい仲間であることは違いなく、歓迎した。
新たなメンバーが加わったことにより、我々は改めて自分達の持つ技術の魅力を伝えることにした。
これまで工場同士で行っていた技術共有よりもさらに分かりやすく伝えるよう心掛けた。技術の全てを伝えることは出来ないが、きっとこれから要素技術の良き理解者となってくれることを信じて。
ーーーターゲットは「自分たち」
毎年、OOFに合わせてものづくりを行う我々は、何を作るべきか悩んでいた。
子供たちが欲しがるもの?富豪が買ってくれそうなもの?…そんなとき、YOCHIYAがひとつ提案をしてくれた。
「皆さんと一緒にものづくりをすることになったら、こういったものを議論して作ってみたいという思いがあった」
画面に映し出されたのは、美しい形状の「アンプ(音響機器)」だった。
YOCHIYAは美しい形状を保ちながら、それぞれの工場が持つ要素技術を製品として落とし込みたいと熱く語ってくれたのであった。
複雑な回路を組み込んだ装置を完成させたことがない工場も多く、品質や納期が保証できるわけではない。しかしこのチームでやる意義というのは、挑戦するというところにある。
新たに加わったYOCHIYAとデザイン&テクノロジーがもたらしてくれた新しい風を、町工場が受け止めたらどうなるのか。有志のチームだからこそ出来るかもしれないという可能性を感じ、我々は挑戦することに決めた。
もしこのアンプを買ってくれる人がいるとしたら、それはどんな人か。超高額になりうる製品を、特定の誰かに売るべきなのか。
「誰かのためでなくて、自分達が良いと思うものを作ろう」
安久工機の言葉に、全員の心にかかっていた霧が晴れたのだった。
ーーーものづくりの「ライブ感」
作るもののイメージが決まり、細部や組み付けを考える段階では定例会の場が生きた。
それぞれの技術に特化した職人が一堂に会するということは本来ありえないのだが、このチームではそれができる。
「この加工をした場合、素材の厚さは最低限どのくらい欲しいでしょうか」
「そうしたとき、他の部分に影響はありますか」
「この部分はこうした方がいいですね。次回の集まりまでに加工しておきます」
まさにものづくりが目の前で議論され、仕様が次々と決まっていく。
全体の形状を保ちながら、それぞれの技術をひとつの「箱」に集約していく。流れは順調かと思われたが、ものづくりは決して簡単なものではない。
ディティールの最終調整や加工時間がかなり掛かってしまうことから、目標としていたOOF開催日までに完成させるのが難しくなってしまった。
しかしOOFはひとつの通過点に過ぎない。そこでチーム内の提案があった。
「削り出しを完成品とするならば、板金加工で試作品を作ってはどうか」
金属板を繋げたもので形状を作れば、削り出しよりもはるかにスピーディーかつ後工程でも調整が可能となる。
目標へ向かってすぐに方向修正を行なったのである。
ーーー終わりなき試行錯誤
ひとつの目標としてOOF開催日をゴールとして目指してきたが、完成品にはほど遠いままであった。
慣れない形状や作ってみて分かること、それらが同時にやってきて、即座に解決を求められる苦しい期間だ。
だがどういうわけか、メンバーは笑顔だったのだ。
それは事業とは一線離れた、純粋なものづくりを楽しむ人の喜びからくるものに思えた。
チーム仲間まわしの挑戦は、まだまだ終わらない。
ひとつの町工場、ひとりの職人では何も作れなくとも、仲間とともに協力してこれまでに無かったものが作ることができる。この横の繋がりこそが、明るい未来を切り開くために大事なことなのかもしれない。
「仲間とともに、技術をまわせ」
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協力企業
有限会社小堀精密
有限会社安久工機
シナノ産業株式会社
株式会社三陽機械製作所
ハタノ製作所
YOCHIYA
デザイン&テクノロジー合同会社
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動画:安久工機 田中宙
文:ハタノ製作所 波田野哲二